HALDATA開発チームの生成AI活用ルール
はじめに ― なぜルールが必要なのか?
社内チャットツール Cursor は、IDE 連携やコード補完といった “エンジニア向け特化” の機能が充実しており、プロジェクト後半の実装フェーズでは欠かせない存在です。しかし Cursor のプレミアムリクエスト は 従量課金制。当初設定していた US \$50/月(25ユーザーで約2,500リクエスト相当)は、わずか数日で枯渇してしまいました。
そこで 2025 年 7 月から、枠を \$300/月 に拡大しつつ、無駄打ちを抑えるガイドラインを策定しました。本記事では、その背景と具体的な運用ルールを共有します。これから Cursor × ChatGPT を導入するチームの参考になれば幸いです。
1. 生成AIの得意・不得意を整理する
| フェーズ | 主な作業 | 推奨ツール | 理由 |
|---|---|---|---|
| 情報収集/調査 | 技術的概念の理解、OSSライブラリ選定、簡易サンプル生成 | ChatGPT (GPT‑4o/o3) | 広範な知識ベース、高速応答、リクエスト単価が低い |
| 要件定義/業務分析 | 業務フロー整理、エッジケース洗い出し、仕様の穴埋め | ChatGPT | 自然言語推論が得意。Cursor だとトークンが膨らみやすい |
| 実装・デバッグ | 具体的なコード生成、既存コードへのインラインコメント、AST レベルの修正提案 | Cursor | エディタ連携でコンテキストを深く共有できる。補完が強力 |
| リファクタリング/テスト | ユニットテスト生成、パフォーマンスチューニング、最適構造の提案 | Cursor | 実コードを直接操作でき、テスト結果ループが早い |
2. プレミアムリクエスト消費を抑える 4 つの鉄則
“スキマ時間調査” は必ず ChatGPT で行う
- 新しいライブラリの使い方例、正規表現のワンライナー生成など。
- 目安:1チャット完結 に収まる内容なら ChatGPT へ。
“要件が揺れている” タスクでは Cursor 禁止
- 仕様が固まっていない段階でコードを生やすと、後戻りコスト&リクエスト浪費が倍増。
- まずは ChatGPT でロジックの妥当性を検証してから実装フェーズへ。
コード生成は 30 行単位で区切る
- 巨大ファイルを一気に投げると、Cursor 側で数十リクエストを消費。
- モジュール単位に分割し、極力スコープを絞って 投げる。
プロンプトをテンプレート化し、社内 Doc に共有
- 例:
「XXXのユニットテストを TypeScript で作成してください」 - テンプレ入りプロンプトはコピペ → 変数差し替えだけなので、漏れが減り、リクエストも最小化。
- 例:
3. 月 \$300 でどこまで戦える?――試算と運用フロー
- プレミアム枠:\$300/月 ≒ 15,000 リクエスト
- (Cursor Premium:\$20/1,000 リクエスト換算)
- 平均消費目安(1案件あたり)
- 仕様検討:ChatGPT 20 回 → \$0.0(ChatGPT Enterprise 含む)
- 実装&デバッグ:Cursor 100 回 → \$2
- テスト生成/リファクタ:Cursor 30 回 → \$0.6
- 同時進行プロジェクト数(5件)でも おおむね上限内に収まる計算。
ポイント:ChatGPT で “思考整理” を済ませてから Cursor に切り替えるだけで、プレミアム消費は 約3分の1 まで圧縮できます。
4. 実際の運用手順(ワークフロー例)
タスク管理ツール でチケット作成
生成AI = ChatGPTラベルで “調査タスク” を切り出す生成AI = Cursorラベルは “実装タスク” のみ付与
調査タスク完了 ⇒ 要点を Doc に貼付
- プロンプトや回答をテンプレ化 → 次回流用
実装タスクへ移行
- Cursor のペアプログラミング機能でコード生成
- 30 行単位で区切り、コミット毎に ChatGPT に要約生成 → PR 説明に貼り付け
月次レポート自動化
- Cursor API でユーザー別リクエスト数を抽出
- 凸凹が大きいメンバーには ChatGPT 優先 を再周知
5. まとめ ― “目的ドリブン” でツールを使い分けよう
- 生成AIは魔法ではない:万能感から “とりあえず投げる” と請求額が爆増。
- ChatGPT=発散・思考整理、Cursor=収束・コーディング。役割を明確化する。
- テンプレート&小分け戦略でリクエストを最小化。
- KPI = “Cursor 月間リクエスト/開発案件数” をウォッチし、運用ルールを随時アップデート。
HALDATA では今後も、効率的な生成AI活用フローを検証し、随時ブログで公開していきます。
みなさんのチームでも、“人間の思考を深めるためのAI” という原点を忘れずに、コストと生産性を両立させましょう!
なお、月額300ドルという全社枠を1人が独占しないように、デフォルトではメンバー1人あたり10ドルのリクエスト上限を設けますが、生成AIを自在に操ってチームへ顕著な成果をもたらすエンジニアに対しては、その実績に応じて上限を段階的に引き上げる方針です――ここでも、AIを使いこなす人とそうでない人の差が、数字として、そしてアウトプットとして鮮明に浮かび上がることでしょう。