HALDATA 代表のHALです。ここ数週間、いわゆる「AIブラウザ」を実務にどう組み込めるかを検証しています。特に Comet と Atlas の2製品を対象に、当社のSaaS「TrendViewer」の分析画面を見せながら、実務に耐える“AIエージェント”としてのポテンシャルを見極めました。結論から言うと、将来性はきわめて高い。同時に、現時点の速度・精度にはまだ伸びしろがあり、開発チームと連携して使いどころを見極める段階だと感じています。

なぜ「AIブラウザ」か
従来の“チャットにデータを投げて答えさせる”方式では、
- アプリやダッシュボードの具体的なUI操作が絡むと、一気に運用が難しくなる
- “人が画面を見ながらクリックする”部分が自動化のボトルネックになる
AIブラウザは、ページ理解・要素抽出・クリック/入力の実行までを一気通貫で担い、「画面操作を代行するエージェント」として振る舞います。これが実務効率化の鍵になり得ると考えました。
検証シナリオ:TrendViewerを“見せて”分析させる
今回の検証では、TrendViewerの分析画面をAIブラウザに提示し、以下のような指示を行いました。
- レビュー表示期間を「過去1年」に絞り込む
- フィルタ適用後の主要評価観点の抽出
- 製品ごとのセンチメント傾向と課題の要約
観察ポイント
- UI要素の理解と操作:プルダウンや日付ピッカーを認識し、適切に操作できるか
- 反応速度:指示→操作→結果確認までの体感速度
- 結果の整合性:フィルタ後の集計値やグラフの説明が、画面の事実と一致しているか
体験メモ:Comet と Atlas の印象
細かな設定やネットワーク環境にも左右される前提ですが、体感では Comet のほうが軽快でした。指示に対するレスポンス、クリックの連鎖、画面の再描画待ちのハンドリングなど、一連の操作がテンポ良く繋がる印象です。Atlas も実用的な水準ですが、同じタスクを繰り返した際の待機時間や誤クリックのリカバリで、若干の“もたつき”を感じる場面がありました。
重要:どちらも短期間の試行での所感です。バージョンや設定に依存する可能性があるため、正式な選定時はあらためて長期・多環境での再検証を行います。
「過去1年に絞り込み」— UI自動操作はどこまでいけるか
「レビュー表示期間を過去1年に絞って」と伝えると、AIブラウザは実際にTrendViewerのUIをたどり、
- フィルタメニューを開く
- 日付範囲を選択
- 適用(Apply)を実行
までを自動で完遂しました。操作中もラベルやボタンのテキストを逐次読み取り、想定外のモーダルやスピナーにも対応。結果として、“見せて、頼む”だけで社内アナリストが行う一連の操作を代替できる兆しを確認できました。
プロダクトへの示唆:チャット内蔵は本当に必要か?
現在、TrendViewerの分析画面にチャット機能を準備しています。が、AIブラウザの成熟が進むと、画面を見せて分析させるという外部委任で十分なケースが出てくるかもしれません。すなわち、
- 画面内チャットでのQA ↔ AIブラウザによる画面操作+説明
- 内蔵vs外付けの役割分担(高速な組み込み回答/複雑操作は外付けに委任)
この線引きを再設計する価値があると感じています。“内蔵は高速ファクト、外付けは多段操作”という使い分けが現実的な落としどころになりそうです。
現時点の課題:速度と精度
- 速度:ネットワークや画面重さにより、操作待ちのムラが残る
- 精度:まれに要素誤認や読み取りミスが起き、リトライ戦略が必要
- 監査性:実行ログや操作トレースの再現性をどう担保するか
それでも、エージェントとしてのポテンシャルは極めて大きい。とくに、UI操作を含む定型業務の自動化、アナリストの前処理時間の短縮と説明責任の補助に期待が持てます。
当面のアクション
- 検証の継続:同一シナリオを週次で再実行し、バージョン差分の影響を測定
- プロンプト設計:UI操作の安定のために、手順化プロンプトと例外時のフォールバックを標準化
- ログ収集:クリック座標・DOMセレクタ・スクリーンショットの軽量トレースを蓄積・監査
- 役割分担の設計:TrendViewer内蔵チャットのスコープを“高速回答”に特化し、複雑操作はAIブラウザへ委譲
AG-UIと“Copilot-Shared State”がもたらす次の地平
近年はAG-UI(Agent-Guided UI)という文脈で、Copilot-Shared Stateのように「UIとエージェントが状態を共有し、互いの操作が相互反映される」仕組みが提案・実装されつつあります。これは、
- AI→UI:エージェントが画面を理解し、ボタンやフィルタを直接操作する
- UI→AI:人間がUIを操作すると、その変更(例:対象データや権限範囲、表示条件など)がエージェントの内部状態にも反映される
という双方向の制御ループを可能にします。こうした共有状態が一般化すれば、AIブラウザ単体の能力に依存せず、サービス側の設計で“操作の意味”を保証できるようになります。
「チャット不要」ではなく、役割の再定義
この前提に立つと、分析サービスにおけるチャットUIは「不要」ではなく、
- 合意形成の場:分析の前提条件・粒度・対象期間などを言語で擦り合わせる
- 例外処理の指示口:AIブラウザが理解できない特殊操作や、画面外の業務ルールを補足指示する
- 説明責任のインターフェース:結果の根拠・出典・再現手順を自然言語で提示する
といった役割を担う中核インターフェースへと進化していくはずです。一方で、AIブラウザが苦手とする繊細なUI要素や非標準コンポーネントについては、サービス内で“共有状態”を介してデータや操作意図をエージェントに直接連携する設計(=AG-UI的アプローチ)が当面の実装現実解になるでしょう。
HALDATAの見立て
- 短期:AIブラウザ+内蔵チャット+共有状態(AG-UI)のハイブリッド。UIの“意味”をメタデータで明示し、エージェントが確実に踏むべき手順を状態遷移として定義する。
- 中期:主要操作はエージェントが代替。人の操作は確認・微調整・例外対応へ。チャットは合意形成と説明責任のために残り、むしろ価値が上がる。
- 長期:プロダクトは状態マシン+知識グラフ+ポリシーを中核に再設計。UIは“結果と選択”の提示面に特化し、裏側で共有状態があらゆるエージェントと同期する。
結局のところ、「AIブラウザが理解できない操作=チャットやUIの出番」であり、「理解できる領域=自動化」という役割分担がしばらくは続きます。TrendViewerも、この前提で内蔵チャット×AIブラウザ×共有状態の設計を磨き込みます。
まとめ
AIブラウザは、「人がブラウザでやっていること」を代替する新しい実務基盤になり得ます。CometとAtlasの比較では、現時点ではCometの軽快さに分がある一方、いずれも速度・精度の最適化が続くフェーズです。TrendViewerとの連携で、“画面を見せて、分析させる”という新しい運用パターンが現実味を帯びてきました。
玄人の仕事を丸ごと置き換えるのではなく、“時間のかかる繰り返し操作を肩代わりする”。この方向で磨き込めば、現場の生産性は確実に上がる。HALDATAは、内蔵チャット×AIブラウザのハイブリッドで、最速で価値を届けます。